絵のない絵本 第二夜

絵本

絵のない絵本

Billedebog uden Billeder

クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen

katokt

 

街に住む貧しい絵描きの若者をなぐさめに、夜ごと月が、空の上から見たいろんな国のいろいろなできごとを物語ってくれた。生涯旅を愛したアンデルセンの短編集。

 

第二夜 

「昨日」、お月さまはわたしに語りかけます。

四方を家々にかこまれた小さな中庭を私は見下ろしていました。

中庭には一匹のめんどりと十一匹のひよこがいます。

 

一人の小さなかわいい女の子が、そのまわりをとびはねながら走りまわっていました。

めんどりはびっくりして、鳴きさけびます。そして羽をおおきくひろげ、ひよこたちをかばいました。

すると女の子の父親が家からでてきて、女の子をしかりつけました。私は空を動き、それっきりそのことを忘れていました」

 

 

「でも今晩、数分前のことです。私は同じ中庭を見下ろしていました。あたりいちめん静まりかえっていましたが、とつぜんあの小さな女の子がまた出てきました。

 

しずかに鶏小屋にしのびよるとかんぬきをはずして、めんどりとひよこがいるところへと入っていきます。

 

めんどりとひよこは大声をあげて止まり木から飛び降り、びっくりぎょうてんして走り回っています。そして小さな女の子は、そのあとを追いかけまわしているのです。

私には、鶏小屋の壁の穴からこの光景がはっきりと見えました。

 

私はこのわがままな子供にすっかり腹をたてて、父親が家からでてきて昨日よりひどくしかりつけ、腕をきつくつかんだときには嬉しくおもったほどです。

 

女の子はうなだれました。

 

その青い目にはおおつぶの涙があふれています。

 

「ここで何をしてたんだ」 父親はたずねました。

 

女の子は泣きじゃくりながら答えます。

 

「きのうおどかしたから、めんどりさんにキスしてあやまろうと思ったの。でもこわくて、お父さんにはいえなかったんだもの」

 

父親は無垢な子供の額にキスをしてやりました。もちろん私もその子の目と口にキスをしましたとも。

                                                     

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(c) 2003 katokt プロジェクト杉田玄白正式参加作品(http://www.genpaku.org/)

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