絵の無い絵本 第六夜

絵本

絵のない絵本

Billedebog uden Billeder

クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen

katokt

街に住む貧しい絵描きの若者をなぐさめに、夜ごと月が、空の上から見たいろんな国のいろいろなできごとを物語ってくれた。生涯旅を愛したアンデルセンの短編集。

 

第六夜

「私はウプサラにいたこともあります」お月さまは言いました。

 

「草もまばらな大平原と不毛の地を見下ろしていました。蒸気船が魚たちをけちらしているとき、自分の顔がチュリス川に映るのをみました。

 

私の下ではさざなみがたち、いわゆるオーディン、トール、フリーガの墓の上に長い影をなげかけました。

丘をおおうまばらな芝には、名前が書かれていました。ここには記念碑はありません。

旅人が記念に自分の名前を刻むものもないのです。表面に名前が書けるような岩肌もありません。

したがって訪れた人たちはそのために芝生に名前を書くのです。

地の肌が文字の形となって、名前となるわけです。

こうした名前は丘全体にみてとれました。これは永遠にのこるといってもいいでしょう。新しい芝生がはえてくるまでは」

「丘の頂には、一人の男、詩人がたっていました。

広い銀の縁がついた杯ではちみつ酒をあおると、ある名前をつぶやきました。

風に秘密にしておいてくれるよう詩人は頼みます。でも私はその名前を聞いてしまいました。私にはそれが誰だかわかりました。

 

伯爵の冠がその名前にはきらめいています。だから詩人はその名前を大きな声で口にしなかったのです。

私は詩人の冠がかれの名前をひきたてていることを知っていたので微笑みました。

 

貴族のエレノラ・デストは、タッソの名前にむすびついています。そして私はどこに美しきバラがさきほこるのかも知っていました」

 

そうしてお月さまがしゃべったとき、雲がひとつわたしたちの妨げになりました。詩人とバラのあいだも雲がさまたげなければいいのですが。

 

                   

katokt(katoukui@yahoo.co.jp)

(c) 2003 katokt プロジェクト杉田玄白正式参加作品(http://www.genpaku.org/)

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