絵のない絵本 第八夜

絵本

絵のない絵本

Billedebog uden Billeder

クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen

katokt

街に住む貧しい絵描きの若者をなぐさめに、夜ごと月が、空の上から見たいろんな国のいろいろなできごとを物語ってくれた。生涯旅を愛したアンデルセンの短編集。

 

第八夜

どんよりした雲が夜空をおおい、お月さまはまったく姿をみせませんでした。

 

わたしは小さな部屋に一人たちつくし、前よりずっと寂しい想いにとらわれ、お月さまが姿をあらわすはずの夜空をながめていました。わたしの想いははるか遠く、毎晩わたしにすてきなお話をして、絵をみせてくれる親友のところまで至っていました。そうです、お月さまはなんでも知っているんです。

 

ノアの洪水のときも世界を照らし、わたしに微笑みかけるようにノアの箱船にも微笑みかけました。

そして旧世界からとびだした新世界に慰めと約束をもたらしたのです。イスラエルの民がバビロン河のほとりで涙にくれていたとき、お月さまは柳の木々に鳴らない竪琴がかけられているのを悲しそうに見ていました。

 

ロミオがバルコニーにのぼり、天使が天国へいくように真実の愛がはばたくとき、まあるいお月さまは半分ヒノキに姿をかくしながら明るく照らし、見ていたのです。

 

セントヘレナの有能で偉大な人物が、さびしげな岩の上から広い大海をみつめていたのも目にしていました。そのときにも彼の魂の中には偉大なる考えがひしめいていたのですが。

 

あぁ、お月さまの語るお話のなんてすばらしいこと。人生とはお月さまにとってはお話です。

 

今晩お月さまの姿はみえないでしょう。お月さま、今晩、わたしはあなたが訪問してくれる思い出の絵はかけません。

 

そして、夢みごこちで雲の方をみつめると、夜空があかるくなりました。

 

ひと筋の光がさし、月からの光がわたしを照らし出します。ただお月さまはすぐ姿をけし、黒い雲がとおりすぎました。しかしそれでもちゃんとしたあいさつです。

 

お月さまからわたしへの友情のこもった「こんばんは」のあいさつです。

                 

katokt(katoukui@yahoo.co.jp)

(c) 2003 katokt プロジェクト杉田玄白正式参加作品(http://www.genpaku.org/)

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