絵のない絵本 第十一夜

 
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絵のない絵本

Billedebog uden Billeder

クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen

矢崎源九郎訳

街に住む貧しい絵描きの若者をなぐさめに、夜ごと月が、空の上から見たいろんな国のいろいろなできごとを物語ってくれた。生涯旅を愛したアンデルセンの短編集。

 

第十一夜

婚礼こんれい祝宴しゅくえんがありました」と、月が話しました。

「歌がうたわれ、健康を祝ってさかずきがあげられました。

すべてが豊かで、はなやかでした。お客たちも帰っていきました。

もう真夜中をすぎていました。

 

母親たちは花婿はなむこ花嫁はなよめにキスをしました。

わたしは、花婿花嫁がふたりだけになったのを見ました。

 

けれども、カーテンがほとんどすっかり引かれていて、ランプがこの楽しい部屋を照らしていました。

 

『みんな帰ってくれてありがたい!』と、花婿は言って、花嫁の両手とくちびるにキスをしました。

花嫁はほほえみ、そして泣きました。

 

はすの花が流れる水の上に休らうように、ふるえながら花婿の胸に頭をもたせて、そしてふたりはやさしい幸福な言葉をささやきあいました。『ぐっすりおやすみ』と、花婿は言いました。

 

花嫁はカーテンをわきへ引きよせました。

 

『まあ、なんてきれいなお月さまなんでしょう!』と、花嫁が言いました。

『ごらんなさいな、あんなに静かで、あんなに明るいわ!』それからランプを消しました。

 

楽しい部屋の中はまっくらになりました。

しかしわたしの光は、花婿のかがやいていたように、輝いていました。

 

――女性よ、詩人が生命の神秘をうたうときには、その竪琴たてごとにキスをなさい!」

 

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