命売ります(ちくま文庫)三島由紀夫
『命売ります』は、1968年(昭和43)5月21日号から10月8日号まで、雑誌「週刊プレイボーイ」に全21回にわたって連載され、同年12月25日に集英社から単行本が刊行された。
1968年という年は米原子力空母エンタープライズ佐世保入港反対運動、6月には九州大学に米軍機が墜落、米軍基地撤去運動が高まり10月21日の国際反戦デーでは新左翼学生の反戦デモが暴徒化、新宿騒乱事件が勃発。
日大紛争では警官が死亡し、東大紛争が激化するという激動の1年でした。
三億円事件もこの年ですね。
三島由紀夫はというと、自衛隊体験入隊をした後、祖国防衛隊(楯の会)構想を進め出した年。
三島由紀夫といえば、純文学、それも暗い感じの…というイメージでしたが、この 命売ります はイメージをがらっと覆すかのような小説。
今でいうライトノベルの読みやすさと、漫画のような展開、それでいて三島の美しい文体と日本語は存分に味わえるという贅沢な作品だと感じます(*^▽^*)
そして・・・ジャンルが曖昧です。
依頼から始まるので探偵モノ、ハードボイルドでしょうか。第一、第二の依頼とハードボイルド調で進んで行きます。
そして、一息ついたとこで、第三の依頼は「吸血鬼の母を助けて欲しい」…ん?怪談、怪奇小説?
その次の依頼は明らかにスパイ小説風。
そんな感じで物語は進んでいくのだけど、最後はちょっと考えさせられる終わり方でした。
『命売ります』を連載するにあたり、三島は以下のような言葉を寄せている。
小説の主人公といふものは、ものすごい意志の強烈な人間のはうがいいか、万事スイスイ、成行まかせの任意の人間のはうがいいか、については、むかしから議論があります。前者にこだはると物語の流れが限定され、後者に失すると骨無し小説になります。しかし、今度私の書かうと思つてゐるのは、後者のはうです。今風の言葉だと、サイケデリック冒険小説とでもいふのでせうか?— 三島由紀夫「作者のことば」
以下、裏表紙の内容紹介
目覚めたのは病院だった、まだ生きていた。
必要とも思えない命、これを売ろうと新聞広告に出したところ…。
危険な目にあううちに、ふいに恐怖の念におそわれた。死にたくない―。三島の考える命とは
そして自ら死を選んだのはこの小説発表の年の二年後でした。